おやすみなさい

 私は東方好きではない。あくまでしがない妖夢好きである。しかし、東方原作を好んで遊んでいるのも事実。ジャンルの隔たりなくゲームができるのが特技、と言い続けている私だが、原作STGはどうやらその中でも得意な部類のゲームであった。そう、確かに得意であったのだ。最高難易度であるLunaticのノーミスノーボムクリアが三作品。それぞれ、永夜抄風神録神霊廟。この中でも永夜抄神霊廟では妖夢を使って達成した。妖夢好きの所以である。妖夢が好きだからこそ、ここまで達成できたといっても何ら間違いではない。しかし、それは過去の栄光である。

 昨年11月ごろであろうか。気が付くと私は左手が開きにくくなっていることに気が付いた。手を握った状態から指を開こうとすると、小指、薬指、中指がガクガクとしてスムーズに開閉できないのである。わかりやすく言うと、ばね指の症状が出ていたのであるが、当時の私は忙しく、それを放置していた。元からこんなもんだろう、と思っていたが、それは誤算であった。放置しているうちに利き手である右手も開きづらくなっていることに気が付いた。手を握る、という動作はあまり頻繁に行う動作ではないから大丈夫、などと自分では思っていた。しかし手を動かしているうちに気が付いたのであるが、どうやらこの症状は「手を開いた状態から指を一定のところまで押し下げるようにすると指が開かなくなる」というものであることに気が付いた。これがどういうことかというと、ペンを握る、鍵盤を押す、そして、キーボードを押すという行為をするたびに指を上げられなくなってしまうということである。

 キーボードを押せない。正確に言えば、キーボードを連打できない。一度押すだけならまだしも、複数回指を押し下げ上げてと言う行為をすると、あっという間に腕のあたりと指がつったかのように痛くなり、とても動かすなんて考えられないほどになってしまう。さらに言うと、手首を回すと指に痺れが走るということも起こるようになっていた。日常生活に支障をきたすまでに至った故、私はようやく多忙の中病院へ向かうこととした。

 診察は簡単なものであった。「中度の腱鞘炎である」という旨をただ淡々と伝えるだけであった。それを聞いて私はほっとした。しかし、私の腱鞘炎には他の人の腱鞘炎とは違う点があった。それは、根本の治療が不可能、というものであったのだ。診てもらった病院は私が昔から頼っている病院というのもあり、かなり私の身体の構造などについては詳しく診てもらっている。そして、私の関節などの構造は遺伝的な問題が多く、簡単に言うと「関節が柔らかすぎて動きすぎるから簡単に変な方におかしくなってしまう」体質を持っているらしい。これはテーピング等で固定しても治るということはなく、そういう体質として受け入れるしかないそうだ。これ自体に問題はないのだが、これらによって引き起こされる症状についてはまた話が別である。体質による症状なのだから、その症状は対処療法でしか治癒できない。毎日痛み止めを飲むだとかそういうのである。治らない、のである。

 そうして痛み止めを飲む生活をするようにはなったが、痛みこそ減るものの動きづらさは全く軽減されない。要するにキーボードは押しづらいままである。あまりにキーボードの左端にある文字「A」や「S」が押しづらかったのでホームポジションを変えた。なるべく楽な体勢で過ごすようにした。それで文字は打ちやすくなったが、今度は変な角度で固定されたからか、所謂「WASD」移動ができなくなった。私はFPSの引退をよぎなくされた。頑張れば移動はできるのだが、SHIFTキー,CTRLキーが押しづらいのであまりそれらを押さないゲームを遊ぶようにしている。

 そろそろ言いたいことがお分かりだろうか。SHIFTキーが押せないということは、東方原作STGができないのである。あのゲームはSHIFTキーを押して避ける動作があまりにも多い。また、比較的動くとは言え右手もまだ動かしづらい。方向キーを押すのもなかなか手間である。また、私の左手は中指、薬指、小指をバラバラに動かせない症状上、ショットキー(Z)を押すと低速キー(SHIFT)も一緒に押してしまう。もちろん離せば逆になる。つまりショットを押しながらの高速移動、ショットを止めた低速移動が少しやりづらいのである。

 ここ最近忙しく、東方を遊ぶ時間はかなり減っていた。それが発見を遅らせる原因だった。久々に風神録を起動した私は、ほんの20分足らずで痛みからプレイの続行を断念することとなってしまったのだ。どうにも指が動きづらい中30分プレイできる日もあったが、それは不安定である。これは、私が東方原作をプレイすることを諦めねばならないという現実の突きつけであった。

 そうして、私は東方原作STGの実質的引退を宣言した。最近は指のリハビリもかねていろいろなゲームに挑戦しているが、やはり手首がつらい。今も2000字ほどこの記事に文字を書き連ねているが、かなり腕、手首が悲鳴を上げている。私はこの身体のSOSに従い、ここらでこの記事を締めようと思う。

 身体は貴重な自分のリソースである。失ってはならない。自らを大事にできない自分に、ようやく天罰が下ったのかもしれない。私はもう、FPSも、音ゲーも、STGもできない。私は少し休もうと思う。この知識、経験は無駄にはならない。そして、この感情こそは、かけがえのないものである。それを絵に記す旅に、私は出発しようと思う。休息とは、止まることを指すのではない。文字通り、「息」を「休」めることをいうのである。生き急いではならない。──否、息急いではならない、だろう。

 おやすみなさい。夜は皆平等に、今日もやってくるのである。明日も、そのまた明日も。