以下はスーパーダンガンロンパ2の重大なネタバレを数多く含みます。クリアした方のみこの先をご覧ください。ダンロン2好きの私がゲーマーとしてお願いしますので。ネタバレなしで私はダンロン2を遊んでほしいのです。
今回話すのは、ダンロン全体の考察というよりは、主に裁判中において5,6章がどうしてあんなことになったのかという話。狛枝や日向、七海にカムクラなんかがどうしてあのような人物として行動したのか、とかそういう話。注意として筆者はダンロン1,2,アニメ版ダンロン3のみプレイ済。
まず5章を振り返ろう。5章において狛枝は自らの命を犠牲にして「誰が殺人を起こしたのかが殺した本人ですらわからない」という最大級の謎を作り上げ、対して日向達生存者は七海の「裏切者の自分が狛枝を殺したに違いない」という推理を信じ、無事に生き延びた。しかし、それは狛枝の望んだ「超高校級の絶望を皆殺しにする」という結末ではなかった。というのが大筋。
しかし、どうして狛枝は負けてしまったのだろうか。生存確率1/6のファイナルデッドゲームの運ゲーにも勝利し、自らの命を代償にしてまで行動を起こし、自らの希望のために行動した狛枝がどうして負けてしまったのだろうか。1章では最初から犯人を知っていて盤面をかき乱し、2章では他のメンバーからの要請を受けて傍観者に徹し、3章では文字通りの絶望病による事件を許すまじと行動し、4章では真実を知って前座でしかないこのゲームを早く終わらせようとし、そして5章では希望のために自分の命を擲った……そんな狛枝が、である。それは、やはりダンガンロンパシリーズの肝ともなっている「超高校級の才能」が関係してくる。
ダンガンロンパにおける殺人では、必ずクロの才能が発揮されるという暗黙のルールがある。1章では「超高校級の料理人」だったからこそ厨房を使用できた花村がクロとなり、2章では「超高校級の剣道家」だったからこそ護衛を務め、竹刀を持っていた辺古山がクロとなり、3章では「超高校級の保健委員」だったからこそ看病を行っていた罪木がクロとなり、4章では「超高校級の飼育委員」だったからこそ生物界の共喰いを肯定し、動物を扱えた田中がクロとなった。そういうことである。
しかし実際には、狛枝だけは自分の才能を発揮するための条件、いわばトリガーを引くことができていなかったのである。狛枝が好きで好きで堪らなくて通信簿イベントを進めていた人ならわかるだろうが、狛枝の「幸運」が発揮されるためには、幸運と同じほどの大きさの「不運」が前提になっていなくてはいけない。その不運とは隕石や誘拐など、想像を絶するほどのとびっきりの不運である。しかし、5章において狛枝は前提となる不運に見舞われていない。一見すると彼が自分の命を犠牲にしていることがトリガーに見えそうだが、そうではない。彼の彼の計画のうちであり、運など関係ないものである。つまり、彼のトリックは幸運なんてものとは無関係のものだったのだ。だからこそ、彼は自分自身をクロにすることができなかった。「他の誰か」をクロにする必要があったのである。そして結果、別のクロの才能が発揮されることとなった。それが、七海千秋の才能、「超高校級のゲーマー」であった。
1~4章においては、クロの「才能」を日向たちの「推理」が上回ったからこそ勝利することができた。そして5章。前述したように、トリックにおいて才能は発揮されなかった。ダンガンロンパらしくない、もっと言ってしまえば推理ゲームとしては禁忌ともいえる「推理しても無駄な状況」に対して、七海千秋の「推理」、そして彼女のゲーマーとしての「才能」が上回ったのである。詳しく説明しよう。
ダンロン2を遊んだことのある人ならわかるだろうが、ダンロン2の舞台は新世界プログラム内、すなわちゲームである。我々からしたらゲーム内ゲームなわけである。その世界において最も強力な才能を発揮することができるのは誰だろうか? 全ての才能を持ち合わせているカムクライズルはこの世界に侵入することができないため不適である。お分かりの方もいるかもしれないが、舞台がゲームである都合上、最も強力な才能を持っていると言えるのは、「超高校級のゲーマー」である七海千秋なのである。実際、彼女はどの裁判の中でも議論を正しい方向へと進めさせていたし、与えられた任務を冷静にこなすほどの力があった。さらにいえば、七海の味方には世界の管理者権限を持っていたウサミがいた。ゲーム序盤においてウサミはモノクマによって無力化され管理者権限も失ってしまったわけだが、それほどの人物と一緒にいたという過去から、彼女本来の優秀さがわかるだろう。
七海千秋の才能は、他のどんな生徒の才能をも上回る。それは、絶対的な幸運を持つ狛枝さえも凌駕するものだ。さらに言おう。新世界プログラムにおける七海千秋の才能は、ダンロン1,2両事件の元凶ともなっている、あの江ノ島盾子の才能「超高校級の絶望」にも匹敵する、ましては打ち勝つほどの強さがあったのだ。それを証明するように、七海は裁判を進めさせて世界(物語)を結末に向かわせる力があった。未来機関からやってきた裏切り者としての力があった。皆を未来へと導く力があった。希望と希望がぶつかりあう6章終盤の絶望的な状況において日向を励ます力があった。彼女には、最凶の敵である江ノ島盾子を「それは違うぞ!」と論破する力があった。彼女は、最強の才能の持ち主であった。
話を戻そう。最強であった七海千秋は図らずも5章クロとなってしまったわけだが、彼女の才能は狛枝への論破に使われた。つまり、クロが本来才能を用いて行うはずのトリックが既に狛枝によって終了されていたために、彼女の才能は殺害、犯行ではなく論破、解決に使われることとなったということである。「(殺害に向けて)才能を発揮した狛枝が、才能を発揮していない七海を殺した」のではなく、「才能を発揮できなかった狛枝を、(解決に向けて)才能を発揮した七海が殺した」のである。だから、5章のクロは七海だと言えるのである。実際、七海は狛枝の当初の希望を打ち砕いた。まさしく狛枝凪斗が一貫して言い続けていた「どちらの希望が優れているか」という行為の結末である。これが、5章における事の顛末である。
ここで余談だが、おそらく「みんなを未来へと導くパスワード」を作り上げたのは七海千秋であろう。"11037"という数字列は苗木が決めたものであろうが、狛枝がパスワードのことを「裏技」と称していたことが、これらに七海が関わっていることを暗に示しているのであろう。また、狛枝はその実誰よりも主役に憧れていた。自身の希望が世界の希望となることを望み、それが達成された暁には、功績を讃えられ、偉業を伝えられ、銅像を建てられ、自身を敬われ、「超高校級の希望」と呼ばれることを望んでいた。これはモノミが死に際に残した「英雄になる必要なんてない、無理に誰かに認められなくてもいい、自分に胸を張れる自分になれればいい、自分への"愛"は一生自分を応援してくれる」という言葉とは清々しいほどに対照的である。狛枝は未来へと導くパスワードを伝えていながらも、最も未来機関とは縁の遠い人物であった。彼は恐ろしいまでに自分を見下していた。自分の才能さえも貶していた。そんな彼のままでは、いつまでも救われることはなかったのであろう。悲しいことではあるが……。ただ、アイランドモードにおいて狛枝エンドでは「自分の中にも希望を見つけることができた」という旨を発言していることから、本来の世界であれば狛枝も幸せになれたのだろう。
そういえば、5章で狛枝が6人の生存者のうち1人を狙い撃ちにするという構図。これはファイナルデッドルームで狛枝が行った1/6のデスゲームと一致するようだ。議論開始と共にカメラが俯瞰に近い構図から回転し出し全員を映す。怪しい人物の指名においてリボルバーのシリンダーを回すように七海千秋を指摘する構図。ここまで考えて学級裁判の席を円形にしていたというのなら、ダンガンロンパの制作陣には脱帽せざるを得ない。以上余談であった。
ここまでで話したいことは大方片付いたが、6章についても触れておこう。江ノ島盾子の真の目的、「希望と希望がぶつかりあう絶望的な状況」において、日向は絶望し自らの殻へと籠ってしまう。そんな時、日向の記憶内の七海千秋が現れる。日向を励まし、「私も力になる」と言い残し、目覚め覚醒した日向が七海と共に江ノ島を滅ぼした。それが6章の話である。なぜ日向が江ノ島を倒せたかということについては、先に語った通り七海の才能の影響が非常に大きい。しかし、これに加えてゲーム内存在である七海にはできなかったことがある。それが、「やればなんとかなる」ということである。ゲームじゃない世界ならば「やればなんとかなる」わけだが、七海はゲームから出られないため「やればなんとかなる」ことはない。だから、記憶の中の七海は日向に想いを託したのであった。
目覚めた日向は髪が白く逆立ち、赤目になる。これはダンロン1、3章において石丸が覚醒した現象に非常に近しい。あの時も、彼はアルターエゴ(不二咲千尋)のデータや記録から再現した大和田の励ましを受け、絶望から立ち直ったという状況であった。しかし、ダンロン2の6章とは完全に異なる部分がある。それは、石丸は自分のことを「オレはオレだ」や「石丸と大和田で石田」と称するほど過去の自分を失っているが、日向は「俺は日向創だ」と断言できるほどの自身を持っている。これは石丸が超高校級の風紀委員としての才能を持ち合わせていたのに対し、日向が才能を持ち合わせておらず、そこに肉体を持たない(アニメでは現実に存在していたことが明かされたが少なくともこのゲーム内では肉体を持っていない)七海の才能が加わったからという理由である。結果、肉体や精神は日向創のままに、才能のみが七海千秋の「超高校級のゲーマー」となったのである。
あの覚醒日向はカムクライズルの能力を取り戻していたわけではない。このゲーム内世界で最強とされる「超高校級のゲーマー」の才能を持つ日向創だったのである。だから、裏技として「ボタンを連打する」ことで目覚めることができた。「ボタンを長押しする」ことでコトダマを溜めることができた。生み出した無限のコトダマで全ての発言を打ち抜く力があった。無限の言葉のナイフで江ノ島の言葉を斬り伏せることができた。江ノ島の反論を無限に打ち砕き、「それは違うぞ」と言い放つことができた。これらすべては七海千秋の才能が元であったのだ。驚愕の事実ではあるが、おそらく過去の裁判において七海はこれらのことを本来できていたのだろう。しかし、彼女は超高校級の才能を持つ人物であると同時に、新世界プログラムに縛られているNPCでもあった。彼女が「仕様上」自分から裏切り者だと打ち明けることができなかったように、本来七海千秋のリミッターとしてこれらの能力も封じられていたのだろう。その能力がNPCではない日向創に渡ったことによって、ようやくこのようなことができるようになったのであろう。これが、6章における事の顛末である。
以上、私のダンロン2における感想、考察であった。あまりまとまりのない文章にはなってしまったが、私のダンガンロンパ2に対する思いをある程度書き記せたかな、と思う。ダンガンロンパV3は賛否両論ではあるものの、近いうちに遊びたいなと思うばかりである。