雪桜 咲いて散るこそ 定めなれ

 今年の開花は例年より幾日か早かった。三月には咲いていた桜は気付けば散っており、四月半ばの今日では葉桜となってしまっている。

 もし桜が散ることがなかったら。いつまでも咲き続ける花であったなら。初めこそ花見が楽しまれるだろうが、そのうち人々はそれに飽き、鑑賞することなどやめてしまうだろう。一年、凡そ三六五日の中で満開を楽しめるのはせいぜい数日。その希少価値こそが桜を春の風物詩として成り立たせている。毎日のように浮かんでいる雲は空の風物詩にはなりえないのである。

 終わりが訪れることは、そのもの自体を美しくしてくれる。たとえ散り方が無様であったとしても、終わりが訪れないままのものよりはよっぽど美しい。私は、有限のものを愛し、そして有限でありたい、より希少でありたいと、そう願ったばかりである。中途半端な、雪の散り様でも、美しいものだと信じて。